【今週の1枚】世界一の紅葉@涸沢

世界で最も紅葉が美しい場所といわれるのが、北アルプスの涸沢です。

私が言っているわけではありません。登山者のあいだで「あそこの紅葉は素晴らしい」といった話になると、最終的には「やっぱり涸沢が日本一」ということになります。

しかし、それで終わりません。さらに事情通の方がいて「涸沢の紅葉は、日本一どころか世界一だ。世界を旅した〇〇さんがそう言っていた」とか「写真家の□□さんも、世界各地の山を撮ったけど紅葉の美しさで涸沢に勝るところはないと言っていた」といった話が飛び出してきます。

世界を旅した〇〇さんも、写真家の□□さんも、そのとき初めて聞いた名前で失念しましたが、少なくともそこにいる全員が「やはり涸沢の紅葉に勝るものはない」という結論に納得していました。

というわけで、今週の1枚は涸沢の紅葉です。撮影したのは2002年10月3日。この年は紅葉の当たり年といわれていました。

涸沢の紅葉が美しいといっても、毎年同じように最高の姿を見せてくれるわけではありません。夏の気温や日照時間、秋の冷え込み具合などで色づきが違うし、天候不順で葉っぱが縮れてしまうこともあります。

それに加えてタイミングです。涸沢の紅葉の見ごろは9月末から10月初旬ですが、本当に美しいピークは数日といわれます。そして、その数日が好天に恵まれるかは運しだい。

さらに、この時期、涸沢は本当に混雑します。今はコロナ禍の影響で完全予約制になっていますが、かつて山小屋では布団一枚に3人で寝るといわれていました。テント場もピーク時には1000張以上になって、斜面に張ったり、自分のテントが分からなくなるといったことが普通にあったそうです。

というわけで、いかに混雑を避けて涸沢の紅葉を撮るか。そのために私が立てたのは、手前の横尾に泊まって早朝に出発し、涸沢の紅葉を撮影したあと北穂高岳に登るプランでした。

ところが、その直前に台風が来てギリギリまで迷いました。台風のあとは晴れの予報が出たので横尾山荘に電話したところ、すでに予約でいっぱい。横尾山荘は当時から完全予約制だったのです。

ただ、その前日(10月2日泊)なら少し空きがあるとのことで、そこに賭けることにしました。2日の朝に上高地を出発したときは、まだ台風の影響が残っていたのですが、歩いているうちに回復してきました。

翌3日は、午前3時過ぎに横尾を出発、もちろん真っ暗です。横尾から涸沢までコースタイムで約3時間ですが、涸沢に着いたのは7時半ころでした。少し風があるものの、涸沢の紅葉は台風の被害を受けることなく見事に輝いていました。

涸沢の紅葉が美しいのは、適度な標高と植生に加えて、東側から南側、西側までぐるりと高山に囲まれていて強風の影響を受けにくいからだといわれています。そしてカール地形なので、古代遺跡の円形劇場から穂高連峰を見上げているような感じがします。写真の左上に写っている山は涸沢岳です。

さて、お昼近くまで夢中で写真を撮って午後から北穂高岳に登り、その日は北穂高小屋に泊まりました。もちろん予約を入れておいたのですが、特に満員という感じではなかったように記憶しています。

翌日(4日)は北穂から涸沢へ下りました。もうワンチャンスあると思っていたのですが、涸沢は霧につつまれてどんよりしていました。よくいえば幻想的ともいえますが、どちらかというと不気味な感じがして、ほとんど撮影しないで下山しました。

当初の計画どおりに入山していたら涸沢への到着は4日で、今回の1枚は撮れませんでした。山では、こうしたわずか1日の違いで泣き笑いということがよくあります。私も、泣きの方も含めて何度も経験しています。

最後になりましたが、手前に大きく写り込んでいる真っ赤な木はナナカマドです。高山の紅葉の主役といってもいいでしょう。ご覧のとおり葉も実も真っ赤になります。

木や山域によってはオレンジ色になることもあります。しかし天候不順が続くと、青い葉がマダラに茶色くなって枯れてしまい、そのまま落葉します。

ハズレ年のナナカマド

別の山で撮ったハズレ年のナナカマド

夏は普通に緑色なのですが、少し気をつけていると登山道脇などでよく見かけます。そして、「秋に来たら美しく紅葉しているんだろうな」なんてことを思ったりします。

夏のナナカマド

別の山で撮った夏のナナカマド

ちなみに、ナナカマドという名前の由来は、幹が燃えにくくて七回かまどに入れても燃え残るからだと言われています。しかし、実際にはよく燃えるという説もあります。

撮影場所:北アルプス・涸沢
撮影日:2002/10/3


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