日本のシンボル、富士山。その頂に立ちたいと思う人は少なくありません。富士山の美しさ、山頂と御来光の絶景、登り方を紹介します。
写真1:誰もが思い描く富士山は、こんな感じではないでしょうか。これは、丹沢の檜洞丸から見た富士山。(撮影:2001/11/24)
写真2:丹沢の蛭ヶ岳から望む、朝日に染まる富士山。夕方は、夕焼け空に富士山のシルエットが見られる。(撮影:2011/11/16)
写真3:八ヶ岳の主峰・赤岳から見た夜明けの富士山。葛飾北斎の「凱風快晴」を思い起こすような景色。(撮影:2000/10/14)
写真4:大菩薩嶺の中腹から見た秋の富士山。遠くからも一目で分かるのが富士山の人気の理由のひとつ。(撮影:2018/10/30)
写真5:南アルプスの鳳凰三山・観音岳から見た、雲海に浮かぶ富士。高い山に登らないと見られない景色。(撮影:2003/10/25)
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高さだけじゃない、日本文化と深く結びついた美しき富士山。
『日本百名山』の著者・深田久弥は、その「富士山」の書き出しに「この日本一の山について今さら何を言う必要があるだろう」と記しています。本文中では「国民的な山」「大衆の山」とし、「偉大なる通俗」とまでいっています。
一生に一度は日本一の山に登ってみたいと思っている人には少々残念な評価かもしれません。しかし、山が好きな人にとっては言い得て妙じゃないかと思います。こちらのブログ記事(一富士、二槍、三剱。)に書いていますが、実は本格的な山好きにとって富士山は、何度も登りたいと思う山ではありません。
しかし、一般的な人気や知名度という点で、富士山に勝る山はありません。はるか昔から歌に詠まれ、絵に描かれ、写真に撮られてきたこと、そして信仰登山の歴史、そういう文化的な側面は極めて大きなものがあります。
2013年には「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界遺産に登録されました。自然遺産ではなく、周辺の神社や自然の造形物とともに文化遺産として登録されています。登録までには曲折があったのですが、評価されたのは富士山と日本人の関係でした。それだけ日本の文化に深く根付いていて、日本人の心に大きな影響を与えてきました。
ちなみに今は「富士」と書きますが、昔は「不二」(同じものが2つとない)とか「不尽」(尽きることがない)とも書いたようです。山名の由来には諸説ありますが、それだけ唯一無二の存在とされてきたということですね。
一方で、日本各地に「〇〇富士」と呼ばれる地元の名山があります。ちょっと矛盾した感じがしますが、これも日本人の柔軟で面白いところでしょうか。
どの方向から見ても美しく、一目で富士山と分かる。
では、なぜ富士山はそんなに人気があるのでしょう。まず、言うまでもなく日本で一番標高が高い。しかも、どの方向から見てもほぼ同じ形で一目で富士山と分かります。そして、円錐形の山容も雪をかぶった姿も、とても美しい。
また、富士山が巨大な独立峰という点も重要です。そのため、あらゆる方向から見ることができます。まずは、富士山を東西南北から眺めてみましょう。
実は、完全な円錐形ではなく南西の傾斜が強いため見る方角によっては少し傾いて見えます。また、南東には宝永火口が大きな口を広げていて、その鼻先は宝永山と呼ばれます。宝永山は、こちらの記事で紹介しています。
次に、遠方から見た富士山の姿です。独特の台形のシルエットによって、誰でも富士山と分かります。
ということで、関東から中部地方の見晴らしのいい場所に立つと、たいてい富士山が見えます。テレビ番組では、遠方に富士山が見えると「わぁー、富士山だ!」とはしゃぐのがお約束ですね。
富士山に登って、日本で最も高い場所に立つ。
そんな富士山に一度は登ってみたいと思う人は少なくありません。富士山に登れるのは、7月1日から9月10日ころの2ヶ月ちょっとの期間ですが、この間に毎年20万人以上が入山しています。
ただ、2020年は新型コロナウイルスのため登山道が閉鎖され、2021年は開山されたものの登山者数はコロナ禍の前の3分の1程度でした。しかし、コロナ禍が収まれば、また増えると思われます。
なお、登山シーズン以外の期間(9月10日ころから翌年の6月30日まで)は、登山道が閉鎖されていて五合目より上に登ることができません。もちろん、山小屋も閉まっています。
富士山の登山ルートは4つあります。詳しくは、この記事の後半にあるアクセス欄を参照してください。
登ってみると分かりますが、富士山の山頂部は直径約700mの巨大な穴です。つまり噴火口で、お鉢(はち)と呼ばれています。そして、穴の縁には凹凸があって、山名が付けられた複数のピークがあります。その中で最も高いのが標高3776mの剣ヶ峰です。
長い登山道を登り切ってお鉢に出ると達成感がありますが、そこは日本最高地点ではありません。静岡側から登った場合は左側に見えるピークが最高所の剣ヶ峰です。山梨側から登った場合は、お鉢を約半周して剣ヶ峰を目指します。
噴火口を一周することを「お鉢めぐり」といって1時間半ほどかかります。特に南側の浅間大社奥宮から剣ヶ峰へと至る急登は大変ですが、これを登り切ると日本最高所の碑が待っています。
それでは、いよいよ日本最高所で撮影した全天球パノラマ写真です。
この写真は、Webサイト『絶景360』の一部です。『絶景360』は、こちら(https://zk360.site)からご覧いただけます。 This photo is a part of the website "zk360.site". The URL of English version is https://e.zk360.site/ – Spherical Image – RICOH THETA
富士山・剣ヶ峰の頂上で全天球パノラマ写真。(2018/9/6)
見たとおり、まず目の前に広がるのは巨大な噴火口です。そして、背後の建物は気象観測所。以前は白いドームがシンボルで人もいましたが、今はドームが撤去されて自動気象観測装置が置かれています。
富士山は、あまりに高くて広大なため、周囲の山々を見て楽しむ感じではありません。しかし、お鉢めぐりをすると、愛鷹山や丹沢、山中湖、駿河湾などを確認できます。
また、「あたまを雲の上に出し」と歌われるように山頂の方が雲より高く、眼下に雲海が広がっていることもよくあります。
一方、空を見上げると色が濃くて宇宙に近い感じがします。ちなみに、空気の濃度は平地の約3分2で、多くの人に高山病の症状が出ます。私は、お鉢めぐりをしているときは、いつも頭痛がしています。
富士山といえば山頂で見る御来光、その絶景。
日本最高所での記念撮影と並んで、たくさんの人が楽しみにしているのが山頂で見る御来光でしょう。高所から見下ろすと冒涜になるから、八合目か九合目あたりから拝むのがいいという人もいるので、山頂より少し下がった場所で御来光を眺めるのもいいと思います。
なお、剣ヶ峰は山頂部の西寄りにあります。そのため、東側の朝日岳や伊豆岳のあたりが絶好の御来光スポットになっています。雲がない(少ない)穏やかな朝は、東側から眩しく鋭い光が射してきます。
ちなみに、富士山山頂の夜明けの気温は8月でも5度くらい。東京の真冬の朝と同じくらいです。凍えながら待って、朝日が昇ると急に暖かさを感じます。太陽の有難さ、偉大さを感じる瞬間です。
私が、この記事のために全天球パノラマ写真を撮りに行ったときは、雲が多くて、しかも台風並みの強風が吹いていました。そのため、お鉢めぐりは断念せざるを得ませんでした。しかし、そのおかげで、まるで天地創造のような劇的な御来光の絶景に出会うことができました。
それでは、富士山山頂の朝日岳付近で撮った御来光の絶景パノラマ写真です。
この写真は、Webサイト『絶景360』の一部です。『絶景360』は、こちら(https://zk360.site)からご覧いただけます。 This photo is a part of the website “zk360.site”. The URL of English version is https://e.zk360.site/ – Spherical Image – RICOH THETA
富士山頂から御来光を望む360°全天球パノラマ写真。 (2018/9/6)
富士山へのアクセス
エリア:中部地方・南部
富士山へ行くのに最適な地図は、
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富士登山のルートは4つあります。いずれも、五合目までバスか車で行って、そこから先が登山道になります。どの登山口も五合目とされていますが、コースによってスタート地点の標高が大きく異なります。
①富士宮口:山頂まで最短ルートとされているのが静岡側の富士宮口登山道です。登山シーズン中はマイカー規制があるため、車は水ヶ塚駐車場に停めてシャトルバスで登山口へ。登山口の標高は2380mで、山頂との標高差は約1400m。登りの時間は、コースタイムで約5時間半です。登山前に宝永山に立ち寄るのもお勧め。
②吉田口:首都圏から行きやすいのは山梨側の富士吉田ルートです。車で五合目まで行けますし(2021年現在)、電車とバスでも行きやすいので人気があります。登山口の標高は2305mで、山頂との標高差は約1470m。登りの時間はコースタイムで約6~7時間、最高所の剣ヶ峰へ行くにはお鉢を半周する必要があります。
③御殿場口:車でアクセスしやすい登山口です。ただし、ここの標高は1440m、山頂との標高差は2300m以上あります。登りの時間も、コースタイムで9時間くらい。そのため、このルートは他のコースで富士登山を経験してから利用する方がいいでしょう。このコースを下山に使うと宝永山への立ち寄りも可能です。
④須走口:もうひとつ、東側から登る須走ルートがあります。このコースは八合目あたりで吉田ルートと合流しているので、下山のとき間違わないように注意してください。登山口の標高は1970mで、山頂との標高差は約1800m。登りの時間は、コースタイムで7~8時間半、最高所の剣ヶ峰へ行くにはお鉢を半周する必要があります。
※2024年から、4つの登山口すべてで入山制限や事前登録制度がスタートしました。山梨側と静岡側でルールが異なります。詳しくは以下のサイトを参照してください。
富士登山オフィシャルサイト
富士登山の一般的なプラン
初めて登るときは、富士宮ルートか吉田ルートがいいと思います。どちらのコースで行くとしても登山計画は2パターンです。
①なるべく早朝に登山を開始して、昼ころ山頂へ。その日のうちに下山する日帰りの日程。御来光は拝めませんが、明るい時間に行動するのと高山病の症状が出ても下山しやすく安全性が高いプランです。とはいえ、一日の行動時間が長いので体調万全で行きましょう。
②午前中に登山口に着いて周辺を散策、身体を高度に慣らします。そして、昼ごろから登り始めて夕方までに七合目から八合目あたりの山小屋に入ります。翌日、午前2時から3時ころ起きて、暗いなか山頂を目指します。そして御来光を拝み、余裕があればお鉢めぐりをして下山。
どちらのプランでも、車で行った場合は同じ登山口に戻る必要があります。一方、電車とバスで行くと、入山した登山口とは別のルートで下山することが可能です。
なお、富士山に限りませんが、登山のコツはとにかくゆっくり登ることです。普段の半分くらいのスピードで歩くことを心がけましょう。
「自分は大丈夫」と思ってガシガシ登ると、30分で足が動かなくなり、数時間後には登山道の脇にへたり込むことになります。そして、それまで追い越してきたベテラン登山者に追い抜かれて行きます。
こうした登り方をすると、まず自分が苦しい思いをします。そして、なんとか山頂まで行っても下山のとき足もとがふらついてとても危険です。
富士登山の装備と高山病対策
①本格的な登山道具を持っていない人でも、登山靴と小型のザック、防寒具は必須です。本文中にも書いたように、山頂の朝の気温は8月で5度くらい。風があると体感温度は氷点下です。また、9月になると山頂では氷が張ります。ヘッドライトや行動食も必要です。登山用品店へ行って「富士山に登りたい」といえば、適切な道具を教えてくれます。
②普段、山歩きをしない人が、いきなり富士山に挑戦して途中で意識もうろうとなり周囲に迷惑をかけている様子をよく見ます。事前準備として「近所の低山を2往復」なんて話も聞きますが、あまり効果は見込めません(もちろん、何もしないよりはいいです)。できれば、標高2000m以上の場所へ行って、少なくとも1日以上その周辺を歩く方が高山病予防の観点からも効果があるでしょう。
③高い山に登ると空気が薄いので、血液中や脳内の酸素が不足してさまざまな症状がでます。その症状を総称して高山病といいます。最初は、軽い頭痛や吐き気くらいですが、重症になると肺浮腫や脳浮腫といった症状になって死ぬこともあります。富士山くらいの高さでも、たくさんの人が頭痛や吐き気を感じています。症状を回復させるには、標高が低い(少しでも空気が濃い)ところに移動するしかありません。高山病対策として缶入りの酸素が売られていますが、実はあまり効果がありません。
④高山病の予防策として、薄い空気に身体を慣らすことを高度順応といいます。その方法は、少しずつ標高の高いところへ行って、そこに滞在して身体を動かします。すると、血液中の赤血球が増えて少ない酸素を身体中に巡らせてくれます。ただ、この方法は効果が出るまで数日かかります。1回の富士登山のために本格的な高度順応を行うのは現実的ではありません。しかし、いきなり登らないで五合目の登山口周辺を歩き回ったり、八合目あたりの山小屋に一泊するだけでも高山病のリスクを減らすことができます。ただし、寝ている間は呼吸が浅くなって高山病の症状が出やすいので、山小屋に入ってもすぐ横にならず深い呼吸を心がけましょう。